【肩の痛みの原因】
2021/06/08
人間の200以上ある関節の中で、もっとも自由度のある関節が肩の関節です。腕を伸ばしてゆっくり回してみると分かりますように、全方向に動くようにできています。こうした動きを支えるために、肩には3つの関節(肩甲窩上腕関節、胸鎖関節、肩鎖関節)と、腱板(小さな筋肉群と腱の集合)、滑液包(動きをスムーズにする液の袋)、靭帯、筋肉が複雑に組み合わさっています。
ところが中高年になるにつれ、肩を構成するいずれの部分も、強度が少しずつ低下していきます。それに加えて、肩をあまり動かさない生活をしていると、柔軟性がなくなり、傷つきやすくなります。
その結果、肩関節周辺のどこかに損傷が生じ、炎症によって痛みを感じるようになります。それが中高年の肩の痛みの代表ともいえる、四十肩・五十肩です。
ただし、肩の痛みだけで四十肩・五十肩と決めつけるわけにはいきません。肩の痛みの原因となる病気や障害は、ほかにもたくさんあるからです。たとえば、スポーツの負担によるもの、あるいは頸椎の変性や狭心症・心筋梗塞の前兆という例もあります。
こうした病気などは、いずれも放置していると治りにくくなったり、深刻な病態につながりかねません。肩の痛みを軽く考えず、その原因と解消法、予防法について知っておきましょう。
1.四十肩・五十肩
四十肩・五十肩は、肩関節周囲炎という病態です。あるとき急に起こります。腕を挙げようとすると、肩関節のあたりに痛み、挙がらなくなるのです(痛みで脱力しまうこともあります)。上方向だけでなく、前に手を伸ばしたり、洋服の袖に手を通そうとしたときなどにも、痛みが起こって挙がらなくなります。
そのため肩をかばって日常の動作が不自然になり、肩や頚周辺の張りを誘発したり、睡眠中にも痛みで目をさまし(夜間痛)、睡眠不足になるなど、日常生活にもさまざまな支障が出てきます。
近年分かったことは、関節機能老化が進んだ状態での物理的負荷がキッカケで発症するということです。ですから、機能老化を進めてしまう負荷もあるので、布石は存在し、突如というわけでもありません。例えば、普段重たい荷物を持つ作業をしている人が、肩鎖関節を寝違えてしまうと発症するということがあります。手のひらを下にしたまま、腕を横から挙げるという作業もよくありません。
従来から言われている方法で「してはならないこと」をあげます。
×2~3キロのダンベル(あるいはそれに代わるもの)を持ち、腕をだらんと下げて、振り子のようにダンベルをゆっくり前後左右に振る運動をする。
→関節液の潤滑の観点からもしてはいけません!(学会で発表しました)
×痛む方の腕の手首を、動くほうの手で上からつかみ、頭越しにゆっくり引っ張り上げる(痛む肩周辺を伸ばす)。
→痛いことをすると悪化するか自然回復は遅れます。ストレッチは禁忌です!(研究論文書きました)
△身体を前に曲げて、腕を垂らす(床に対して垂直方向)ことで痛みなく肩を可動させる。1日1回で良いです。
〇椅子に手を置いた状態で、体を動かすことで肩関節を痛みのない範囲で動かす。
世間的には、五十肩という診断名をつけられたり、判断することが多いです。民間療法で治ったとかいうものはニセモノです。五十肩の定義は『疼痛』と『関節拘縮』です。関節拘縮は引っ張って元の長さに戻らない病態です。ですから、一回でよくなることはありません。常にズキズキするときは炎症が起きていますので、安静が治療になります。落ち着いてきたときは、痛みのない範囲で動かすことがよいです。自然回復でも平均一年半でよくなります(最長5年)。
ニセモノかどうかを判断するためには、タウトニングで関節調整して結果を見るほかありません。一回でよくなるとニセモノだったということになります。改良しないものに関しては、本物ということが分かり、回復にも時間を要します。3か月目以降から可動域が拡大し始めます。特別、施術を受ける頻度とは比例はしません。回復を早めるためにも関節機能老化は改良しておくことが勧められます。なお、関節注射でよくなることはないようです。
2.スポーツによる肩の痛み
スポーツによる肩の痛みには大別すると、肩(腕)を大きく動かすことによるもの(野球、テニス、水泳、ゴルフなど)、打撲などの衝撃によるもの(サッカー、バスケットボール、野球など)があります。
損傷を受ける箇所などによって、次のようなさまざまな障害がみられます。
a.腱板損傷…肩深部にある回旋筋腱板(小さな筋肉、腱)が傷つき、炎症から痛みが生じる。
b.インピンジメント症候群…腱板の一部や肩の動きを滑らかにする滑液包が変性し、上腕骨先端とぶつかり炎症を起こす。肩鎖関節の機能老化に起因することが多いです。
c.上腕二頭筋長頭炎…上腕二頭筋(力こぶを作る筋肉)の根本が上腕骨と接触し、炎症を起こす。
d.脱臼…転倒時の打撲や無理な動きから、肩関節がずれる。腱板損傷をともなうことも。
e.関節機能老化…滑膜関節機能障害のことで、関節の引っ掛かりや滑液の循環不全が起こっている状態です。これが存在するときには、身体は護ろうと周りの筋肉に張りを作らせ、限界がくると痛みを出すようになっています。最短1回のタウトニングで改良できます。
スポーツによる肩の痛みは、腱板断裂や骨折など重症化していることもあります。自己判断せず、冷湿布などで痛みが引かない場合には早めに受診しましょう。タウトニングでどんな病態になっているかフルイにかけることができます。
また、予防のためには、次のことに注意することが大切です。
・ストレッチはしない。
・運動を始める前に体温をあげる準備運動をする。
・やり過ぎない(張り切りすぎない。とくにブランクがある場合。)
・痛みを感じたらしばらく休む。
・睡眠不足のときはやめるか、軽めにする。
・日常やる気のないラジオ体操を取り入れる(骨を傾け、関節液循環を起こす)。